はじめに
シリーズ第1回で、米国の起点(1789年3月4日、合衆国憲法発効)とダイジェストを紹介した。今回はそれを掘り下げ、過去2サイクル分の詳細な検証と、現在地、そして今後の展望まで見ていく。
今回は少し注意深く書きたい部分がある。実はこの原稿を書くきっかけになったのは、ある政治団体が発信した「アメリカ独立250周年」についての一つの歴史解釈だった。大英帝国とハミルトン経済学の対立軸で近現代史を読み解くというその内容は、非常に刺激的で、個人的にも惹かれる部分がある。ただし調べてみると、その中には史実として裏付けが取れる部分と、特定の政治的立場からの主張であって史実としては確認できない部分とが、かなり入り混じっていることが分かった。
なので今回は、確認できる事実だけを使って過去のサイクルを検証し、確認できない主張については「一つの物語」として、それが今後の政治的行動を動かす可能性がある程度のものとして明示的に扱う、という方針で書いていく。
1. 基礎データ——起点と現在地
米国の起点は1789年3月4日(合衆国憲法発効)。237年の歴史は4周(200年)を終え、現在は5周目、2019〜2029年の「火・庶民躍動期」の8年目にいる。
2. 過去の検証——確認済みの事実とサイクルの符合
今回は、直近のサイクル(1989〜2029年)だけでなく、その一つ前のサイクル(1889〜1939年)まで遡って見てみたい。ここには、理論の型を検証する上で非常に興味深い、確認済みの事実が集まっている。
第3サイクル(1889〜1939年)
1889–1899|金・動乱期 金メッキ時代の労働争議が激化した10年。1892年のホームステッド製鉄所争議、1894年のプルマン争議、1893年恐慌と、争いの名残が色濃く残る「基盤づくり」の時代だった。
1899–1909|水・学習期 革新主義時代の始まり。1901年、マッキンリー大統領が暗殺され、セオドア・ルーズベルトに政権が移る——これは史実として確定している事実だ(実行犯の背後関係については諸説あるが、暗殺という出来事自体、そして政権移行という点は動かない)。トラスト(独占企業)解体、暴露報道(マックレイキング)の広がり、1903年のライト兄弟初飛行など、学び・吸収の時代らしい制度改革が進んだ。
ここで注目したいのは、暗殺という国家的な衝撃が、この「水・学習期」の中盤(3年目)に起きているという点だ。前回のウズベキスタン編で見たアンディジャン事件(水期の中盤)、そして次に見る米国自身の同時多発テロ(水期の3年目)とも同じ位置に来ている。これは背後関係の解釈とは無関係に、単純な年表上の事実として確認できる符合だ。
1909–1919|木・和合期 1913年、連邦準備制度が創設される。同年代に憲法修正第16条(所得税)、第17条(上院議員直接選挙)と、国家の制度的な結びつきが強化された時代。期末の1917年には第一次世界大戦に参戦している。
1919–1929|火・庶民躍動期 「狂騒の20年代」。ジャズ、ラジオ、大衆消費文化が花開き、株式市場は空前の熱狂に包まれた。まさに理論が言う「50年で最も庶民に活気が回る時代」そのものだ。
1929–1939|土・権力期 このサイクルで最も印象的な符合がここにある。1929年10月、権力期に入った直後に世界大恐慌が発生。その後のニューディール政策により、連邦政府(特に大統領府)の権限は歴史上かつてない規模まで拡大した。「富と権力が一極に集中する時代」という定義に、これほど正確に当てはまる10年は他にないかもしれない。
第5サイクル(1989〜2029年、現在)
1989–1999|金・動乱期 冷戦終結、湾岸戦争、ロサンゼルス暴動。
1999–2009|水・学習期 2001年9月11日、同時多発テロ発生——これも水期の3年目という、上で見たマッキンリー暗殺と全く同じ位置だ。対テロ戦争、そして期末の2008年に世界金融危機。
2009–2019|木・和合期 オバマ政権、医療保険制度改革、金融危機からの回復。
2019–2029|火・庶民躍動期(現在地) 新型コロナ禍を経て、株式・テック市場は活況を維持し、政治の場ではポピュリズムが高揚している。そして2026年7月4日、独立250周年を祝う「Salute to America 250」がワシントンDCで開催された。悪天候による4時間近い遅延、深夜0時をまわってからの大規模花火——これは実際に報じられた事実だ。政治的な演説内容の解釈は分かれるが、退役軍人の表彰、「黄金時代(golden age)」を掲げるレトリック、大規模な祝祭という形式そのものは、「好景気とエンタメの時代」という庶民躍動期の性質と、驚くほど素直に重なっている。
3. 今後の展望——確認できる事実と、確認できない「物語」を分けて見る
ここからが今回、特に慎重に書きたい部分だ。
確認できる事実の延長線として
理論の型に従えば、2029年から次の「土・権力期」(2029〜2039年)に入る。前サイクルでは権力期の入り口で世界大恐慌という金融的な激震が起きた。今回も2028年の大統領選と政権移行のタイミングが、一つの節目になる可能性はある。また直近では、2026年5月にケヴィン・ウォーシュ氏がFRB議長に就任した(史上最も僅差の上院承認だった)ことも事実として確認できる。ただしその就任の経緯は、トランプ政権による利下げ圧力とパウエル前議長への司法省捜査という緊張関係の中で報じられたものであり、ウォーシュ氏自身は公聴会で「ホワイトハウスの指示は受けない」と明言している。制度への政治的圧力が強まっているという傾向自体は事実として観察できるが、その帰結がどちらに転ぶかは確定していない。
確認できない「物語」として——ある政治的立場からの解釈
冒頭で触れた政治団体(Promethean Action、リンドン・ラルーシュ運動の系譜を引く組織)の主張——「大英帝国的な金融支配からの解放」「ハミルトン経済学の復権」「共産主義・グローバリズムという”敵”の打倒」というナラティブは、史実としての検証には耐えない部分を多く含んでいる(マッキンリー暗殺の英国諜報機関説、マルクスが英国金融家の依頼で資本論を書いたという説、FRBを大英帝国が作ったという説などは、いずれも主流の歴史学では支持されていない)。
しかし、ここで重要なのは、この物語が「事実かどうか」と、「この物語を信じる政治的アクターが実際に行動を起こすかどうか」は別の問題だという点だ。関税政策の拡大、国内製造業への政策的な優先配分、FRBのような独立機関への人事介入——これらは、この物語を信じる人々が実際に推進している、確認可能な政策動向でもある。つまりこの「物語」自体は史実ではないとしても、それを信じる勢力の政治的行動を通じて、今後の現実を形作っていく可能性があるという意味で、シナリオの一つとして参照する価値はある。
その前提で見るなら、今後15〜20年の展望はこう整理できる。
- 2026〜2029年(庶民躍動期の終盤):関税・製造業復権を軸にした経済ナショナリズムの継続。「敵」を明確化し団結を煽る政治的レトリックが強まりやすい時期。2028年大統領選が節目。
- 2029〜2039年(土・権力期):理論の型と、前サイクル(1929年大恐慌→ニューディールでの連邦権限拡大)の precedent(先例)を踏まえるなら、経済的な衝撃と、それに対応する形での連邦権限のさらなる強化が起きやすい時期として警戒しておく価値がある。仮に「アメリカン・システム復権」の物語が政治的に力を持ち続けた場合、この時期に金融制度・通商政策への国家の介入がさらに強まる可能性がある——ただしこれは物語を信じる勢力が現実の政策形成でどこまで力を持つかに依存する、あくまで仮定の話だ。
- 2039年以降:権力期の後には理論上、再び「金・動乱期」が来る。蓄積された制度的な歪みが一度リセットされる形で表面化する可能性がある、という程度に留めておくのが妥当だろう。
おわりに
今回、あえて「事実」と「物語」を分けて書いたのは、この理論そのものの信頼性を守るためでもある。算命学のサイクル論は、史実との符合率の高さによってこそ説得力を持つ。だからこそ、検証できない主張を無批判に取り込んでしまうと、理論全体の価値を損ねてしまう。
その上で言えるのは、マッキンリー暗殺(1901年)と同時多発テロ(2001年)が、ちょうど100年の間隔を置いて、いずれも「水・学習期」の同じ位置(3年目)で起きているという、動かしようのない事実だ。そして1929年の大恐慌が「土・権力期」の入り口で起きたという事実も同様だ。こうした符合の積み重ねこそが、この理論を単なる都市伝説以上のものにしていると、わたしは感じている。